浜口総合法律事務所

  1. ホーム
  2. NEWS

NEWS

2017.08.07

預貯金の相続について

Q.「相続の際の預貯金の取扱いが変わると聞きました。私には高齢の父母と兄弟が1人いるのですが、何がどのように変わるのでしょうか。」
A.これまで、預貯金については、一部の例外を除き、遺産分割の対象ではありませんでしたが、最高裁判所の決定により、今後は遺産分割の対象となります。以下に簡単にご説明いたします。


1⑴ これまで、預貯金については、死亡によって相続分に応じて当然に分割されると考えられており、遺産分割という手続きを経る対象とは考えられていませんでした。
   したがって、ご相談者のお父様(あるいはお母様)がお亡くなりになった場合、ご相談者とご兄弟は、銀行などの金融機関に、お父様(あるいはお母様)名義の預貯金のうちそれぞれの相続分(1/4)に相当する部分を払い戻すように直接請求することができました。
 ⑵ しかし、最高裁判所の平成28年12月29日の決定とこれに引き続く平成29年4月6日の判決により、預貯金についても、死亡によって相続分に応じて当然に分割されるわけではなく、遺産分割の対象となるとされました。

2⑴ 実務上は、これまでも、ほとんどの金融機関は、相続人全員の意思が確認できなければ預金の払い戻しには応じていませんでした。したがって、相続人のうちの1人が相続分に応じた預金の払い戻しを受けようとする場合には、裁判手続きを経ることが一般的でした。
   もっとも、入院費用、葬儀費用、固定資産税の支払や、家族の生活費の支払の必要があるような場合には、金融機関はある程度柔軟に払い戻しに応じてくれることがありました。
 ⑵ 最高裁判所の決定によっても、相続人全員の意思が確認できなければ預金の払い戻しには応じないという金融機関の実務上の対応に変化はないと思われます。
   しかし、預貯金について遺産分割の対象となるとされたことにより、前述の柔軟な対応には変化が生じるのではないかと考えられ、入院費用や当面の生活費のための払い戻しが難しくなる可能性があります。
   こうした払い戻しが必要なのに遺産分割がまとまらなかったり、相続人全員の同意が得られないような場合には、家庭裁判所で「仮分割の仮処分」という裁判手続を活用して払い戻しを受けるという方法が考えられています。

2017.02.18

中古住宅の売買における瑕疵について

第1 はじめに
 1 中古住宅の売買は、新築住宅の請負や売買に比べると低調であることから、近年ではその活性化が求められているところです。
  しかし、売買の対象となった中古住宅に瑕疵があった場合、買主から、売主の責任を問われるだけではなく、住宅を建築した建築業者の責任も問われることが考えられます。また、場合によっては、売買を仲介した宅建業者の責任も問われる場合も考えられます。
 2 今回は、売買の対象となった中古住宅に瑕疵があった場合において、買主から売主と建築業者の責任が問われたところ、売主の責任は認められず、建築業者の責任は認められた事例を紹介します。

第2 裁判例(東京地裁H27.4.10)
 1 事案の概要
   本件は、購入した中古住宅が傾斜していたところ、買主(X)が、①建築業者(Y1)に対しては、建築時に敷地の埋め戻しを適切に行わなかった不法行為に基づく損害賠償を求め、また、②売主(Y2)に対しては、瑕疵担保責任と、傾斜についての告知義務を果たさなかったという不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。
 2 事実経過
(1)中古住宅の建築
  ア 平成15年10月頃までに、Y1は、分譲会社から4戸の住宅の建築を請け負った(うち1戸が本件中古住宅)。
  イ 平成16年2月20日から、Y1は、本件中古住宅の建築に先立って、隣接建物の地下室と基礎の工事を行うこととし、隣地を掘削したが、その際、作業スペースを確保するため、境界線を越えて、本件中古住宅の基礎の設置が予定されている土地の一部まで余掘りを行った。
  ウ 平成16年4月12日、Y1は、余掘り部分を埋め戻し、同月13日に余掘り部分の転圧を行って、その頃から本件中古住宅の建築を開始し、同年6月17日に完成させた。
(2)Y2とXとの売買契約等
  ア 平成16年6月29日、分譲会社は、Y2に本件中古住宅を売った。
  イ 平成23年1月31日、原告はY2から本件中古住宅を購入した。
    売買契約には、瑕疵担保責任に関し、「売主は買主に、本物件を現状有姿のまま引渡すものとします。但し、売主は、本物件について引渡し後、2か月以内に発見された雨漏り、シロアリの害、建物の構造上主要な部位の木部の腐蝕、給排水設備の故障の瑕疵についてのみ、買主に対して責任を負うものとします。」との特約があった。
  ウ 平成23年4月5日、原告は本件中古住宅の引渡しを受け、同月8日に入居した。
(3)本件中古住宅の傾斜等
   本件中古住宅の床面は傾斜しており、その最大傾斜角は、1階及び2階で17.8/1000、3階で15.1/1000であり、これらの傾斜角は生理的な限界値と同等又はそれ以上であるほか、本件中古住宅の柱も傾斜しており、売買契約時において、本件中古住宅には隠れた瑕疵が存在した。
(4)原告の被告らに対する提訴
   原告らは、本件中古住宅に入居した直後頃、本件中古住宅が傾斜していることに気付き、Yらに対して合計1780万円弱の支払いを求めて提訴した。
4 判決の要旨
  本件の争点は次の4点でした。
 ①(争点1)
   本件中古住宅の傾斜がY1による余掘り部分の締固め不良ないし転圧不足によるものか
 ②(争点2)
   特約によりY2の瑕疵担保責任が免責されるか
 ③(争点3)
   Y2が不法行為責任を負うか
 ④(争点4)
   損害額
  裁判所は、次のように判示して、Y2の責任は認めませんでしたが、Y1の責任を認めて、補修費用、調査費用及び弁護士費用の相当額の損害賠償請求を認容しました。
(1)争点1について
   以下①~④のような事情からすれば、本件中古住宅の傾斜は、Y1による余掘り部分の埋戻しの際の締固めが不十分であったため、降雨の浸透による土粒子の移動や土の自重によって地盤の沈下が生じ、これにより基礎が不同沈下したことによって生じたものであると認めるのが相当である。
   したがって、本件中古住宅の傾斜は、余掘り部分について適切な埋戻し及び転圧を行わなかったというY1の過失に基づくものであるということができる。
  ① 本件中古住宅の土地の表層部はやや軟弱な地盤であり、建築する際の調査結果では、基礎下にやや軟弱な地盤が確認されるとして、全体に入念な締固めを行った上でベタ基礎を採用することが適当であるとされていた。
  ② Y1が余掘り部分を掘削したことにより、土地の表層部のやや軟弱な地盤より下にある支持力のある地盤も掘削された。
  ③ 公共建築工事標準仕様書(建築工事編)及び建築工事監理指針によれば、埋戻しの方法としては300mm程度を埋め戻すたびに転圧用の機械を用いて締め固めることが原則とされているにもかかわらず、Y1は、埋戻しの中途における段階的な転圧を行っていなかった。
(2)争点2について
   売買契約には瑕疵担保責任免責特約があるところ、特約のただし書では免責除外事由を明示的に限定しており、これを例示列挙と解することはできない。
   また、本件中古住宅の傾斜は、本件中古住宅が完成した後、徐々に生じていったことが窺われ、建物の傾斜の有無を感じる程度には個人差があり、建物で生活をする者が徐々に程度を増していく傾斜を感じづらいことも容易に想定できることからすれば、本件中古住宅の最大傾斜角が生理的な限界値と同等又はそれ以上であることを前提としても、Y2が本件中古住宅の傾斜に気付いていたとまで認めることはできない。
   以上によれば、Y2は特約により免責される。
(3)争点3について
   Y2が売買契約時に本件中古住宅の傾斜を認識していたと認めることができないことは上記のとおりであるから、売買契約の際に本件中古住宅が傾斜していることを原告に告知する義務があったとする原告の主張はその前提を欠いている。
   したがって、Y2に対して不法行為に基づく損害賠償を求める原告の請求は理由がない。
(4)争点4について
   原告は、土地の修復及び本件中古住宅の補修に係る費用として、鋼管杭及び耐圧版を設置することを前提として合計993万7725円とするが、土地の修復は耐圧盤を設置する工法によっても可能であり、耐圧盤を設置する工法によった場合には、鋼管を圧入する工法によった場合に比べ、安価に修復を行うことが可能であることなどからすれば、修復・補修費用は合計700万円であると認めるのが相当である。
   なお、原告の主張する慰謝料は認めることはできない。
   以上から、原告は、Y1の不法行為によって調査費用及び修復・補修費用の合計723万6250円と弁護士費用70万円の損害を被ったと認められる。

第4 検討
   不動産の売買契約に規定された瑕疵担保責任免責特約について、その有効性や適用の有無が争われた事例は多くありますが、本件ではその適用が認められた事例の一つです。
   また、瑕疵について売主が認識していた場合には瑕疵担保責任免責特約が適用されないこととなることから、本件では傾斜についての売主の認識が問題となりましたが、売主は建具の不具合については気が付いていたとのことであり、傾斜が生理的な限界値と同等ないしそれ以上であったというなかで売主の傾斜に対する認識が認められなかったというところについては、別の判断もあり得たかもしれません。
   宅建業者としては、本件のような紛争を回避するためには、まずは、売主に建物の傾斜をうかがわせる事柄について物件状況等報告書や設備表等に積極的に記載するよう促すことが考えられます。また、自らも建物に赴いた際に傾斜に関する現象の有無に気を配り、これに気付いた場合には、売主に上記書類への記載を求めるだけでなく、住宅診断を勧めるなどする必要があると考えられます。また、傾斜が確認されれば、宅建業者として買主に対する説明義務が生じうることにも留意が必要でしょう。

2016.12.12

遺言書について②

Q.「先日、母が亡くなりましたが、母は手書きの遺言を残していました。
   母は自宅の土地建物を所有していましたが、遺言では不動産の所在として住所だけを書き、これを私に遺贈するとされています。このため、兄から、私への遺贈は建物だけで土地は含まれないと言われています。
そう考えざるを得ないのでしょうか。」
A.次のような判例があります。

1) 遺言書の解釈のルール
 遺言の意思解釈に当たっては、遺言書の記載に照らし、遺言者の真意を合理的に探究すべきとされています。
 そして、遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る場合には、遺言書に表われていない事情を遺言の意思解釈の根拠とすることは許されないと考えられます。
2) 最高裁判所平成13年3月13日判決
 この事案では、遺言書に、「A所有の不動産である東京都荒川区▲▲〇丁目〇番〇号をBに遺贈する」との記載がありました。
 この住所の記載はいわゆる住居表示で、土地や建物の登記簿上の所在とは一致しませんでした。そして、遺言書では単に「不動産」と記載されているだけであって、土地を明示的に排除した記載とはなっていません。とすると、遺言書の記載は,Aの住所地にある土地建物を一体としてBに遺贈する旨の意思を表示していたものと解されるとされました。
3) 本件について
 ご相談の遺言書についても、他に、土地を遺贈の対象から外すような記載がないのであれば、最高裁の判例と同様に、土地建物が一体としてご相談者に遺贈されたと解釈されるのではないかと思われます。
 但し、実際には、他の条項を含め、遺言全体の有効性や解釈などの問題、遺言の執行の問題などもあり得ますので、専門家に相談されることをお勧めします。

2016.08.08

遺言について

Q.「先日、母が亡くなりました。父は既に他界しており、兄弟は兄と私だけです。
   母は自宅などの財産を持っていましたが、封筒に「遺言書」と書いて封をして印を押していたものが見つかりました。
   何とか早く内容を確認したのですが、封を開けて見ても良いでしょうか。」
A.絶対にご自身で封を開けてはいけません。

1)遺言には、大きく分けて、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」とがあります。
  自筆証書遺言は、遺言者自身が全文・日付・氏名を自書し、捺印をするというものです。
2)自筆証書遺言の保管者は、遺言者が亡くなった後、遅滞なく、家庭裁判所に「検認」という手続を請求する必要があります(民法1004条1項)。
  そして、遺言書に封印がある場合には、家庭裁判所で相続人の立会がなければ開封することができないのです(民法1004条3項)。
  万一、検認を請求しなかったり、あるいは勝手に開封してしまった場合には、5万円以下という過料に処されるおそれがあります(民法1005条)。
3)検認をしなかったり、勝手に開封してしまったとしても、それ自体で直ちに遺言書そのものが無効になるわけではありません。
  しかし、遺言書の中で、仮に自宅をあなたに相続させるとなっていたとしても、検認をしていなければ、遺言書だけであなたに名義を移転することができません。
  また、勝手に開封してしまった場合には、お兄さんから、あなたが開封して遺言書を改ざんしたのではないか、など、あらぬ疑いをかけられ、場合によっては、遺言が無効だなどと主張されて裁判にも発展しかねません。
4)したがって、封印のある遺言書は、ご自身で絶対に開封することなく、家庭裁判所に検認の請求をし、その上で家庭裁判所において開封することを強くお勧めします。
  なお、単に封がしてあっただけでそこに押印まではされていなかった場合は、上記の「封印」があった場合にあたりませんので、開封しても過料に処せられるというおそれはないかもしれません。しかし、お兄さんから疑いをかけられるおそれは上記と同様ですので、やはり、封をしている遺言書は、そこに押印まではなくとも、開封することなく、家庭裁判所に検認の請求をし、その上で家庭裁判所において開封することをお勧めします。

過去のNEWS

カテゴリー

  • 弁護士紹介
  • 事務所紹介
  • 取扱分野
  • アクセス
  • NEWS