2016.02.05
遺言の注意点
Q.「私は妻に先立たれ、子供2人(長男・次男)がいますが、遺言で財産の全てを長男に相続させたいと思っています。何か注意することはありますか。」
A.遺言には、大きく分けて2つの方式がありますので、いずれの方法によるか検討する必要があります。
また、ご次男には、遺言によっても損なわれない遺留分という権利があることに注意が必要です。
1)遺言の方式
①[自筆証書遺言]
これは、あなたご自身が全文・日付・氏名を自書し、捺印をするというものです。
したがって、②の[公正証書遺言]のように公証役場に行ったり公証人の手数料がかかったりということはありません。
しかし、後で疑義が生じないように、必要な事柄を明確に書いておく必要があります。また、あなたがお亡くなりになってもどこに保管しているか分かるようにしておく必要があります。
さらに、後日、お子様方の間で、本当にあなたが書いた遺言か、などというような争いになる事例も見られます。
②[公正証書遺言]
これは、公証役場で公証人によって作成される遺言です。
原則として公証役場に赴く必要があり、また、2名の証人が必要です。公証人の手数料も必要となります。
しかし、公証人によって作成され、公証役場で保管されるものであることから、①[自筆証書遺言]の場合の問題点の多くを防ぐことができます。
2)遺留分
①[原則]
配偶者や子供は、遺言で相続するものがないとされても、法定相続分として受け取ることのできた額の半分について遺留分を有しています。
ご次男にも、法定相続分である1/2の半分の1/4について遺留分があります。したがって、あなたが全財産をご長男に相続させるという遺言をしても、ご次男はご長男に対して、相続財産の1/4を遺留分として請求することが可能です。
②[対応方法]
そこで、兄弟間の争いを防ぐため、ご次男にも遺留分相当以上の財産を相続させるような遺言をすることが考えられます。
また、どうしてもご長男に全額を相続させたい場合には、予めご次男に遺留分を放棄してもらうという手続もあります。
3)以上のように、遺言をするに際してはその内容などをよく検討する必要があることから、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
2016.02.01
不動産取引における売買契約について
第1 はじめに
1 売買契約の成立には意思表示の合致が必要とされ、一般に、これは「申込」と「承諾」の合致とされています。
どのような場合に意思表示の合致があったと認められるかという点については、売買の対象や取引の内容、さらには当事者双方の認識などに応じて異なります。例えば、店頭での日用品や食料品の購入などの場合はこれが比較的簡単に認められ、事業の譲渡や不動産の売買契約などの場合では、意思表示の合致が慎重に検討されるということについては、一般の感覚と合致するのではないでしょうか。
2 また、互いに相応の交渉経過があったものの、結果的に売買契約が成立しない場合もあります。
このような場合、売買契約の成立に向けて努力した側が、最終的に売買契約を成立させなかった側に対して、契約締結上の過失があったとして損害の賠償を求めるということも考えられます。
3 今回は、不動産取引における売買契約について、売買契約の成立が認められなかった事例と、損害賠償も認められなかった事例を紹介します。
第2 裁判例1(東京地裁H26.12.25)
1 事案の概要
(1)平成25年12月19日、X(原告)は、保有する不動産の売却を希望していたY(被告)との間で、売却に向けた合意書を締結した。
合意書では、価格は325億円以上とされ、また、所有権移転登記手続の時期、所有権移転の時期や代金決済日の定めはなく、そして、独占交渉条項もなかった。
(2)平成26年1月27日、XはYに、不動産売買契約書のドラフトを送付した。
(3)Yは、不動産の売却についてX以外の第三者とも並行して交渉していた。
(4)平成26年2月14日、YはXに、Xが買主の候補から外れたことを連絡した。
これに対し、Xは、誰にも負けない最高の提案をしようと思っている旨の連絡をした。
(5)YはXに、協議を打ち切る旨の書面を送付した。
(6)そこで、XはYに、売買契約に基づいて不動産の所有権移転登記手続などを求めて提訴した。
2 判決の要旨
Xの請求を棄却
(1)以下の理由から、合意書によって売買契約締結の確定的な意思表示及びその合致がなされているとは言いがたい。
① 合意書は、未調整の条件について今後協議等した上で、正式に売買契約を締結することが予定されている内容となっている
② 高額な売買代金であるにもかかわらず、その金額は確定しているとは読めない
③ 所有権移転登記手続の時期等や代金決済日、表明保証責任や瑕疵担保責任等についても定められていない
(2)加えて、以下の双方の対応は、売買契約は成立していなかったというYの主張に沿うといえる。
① Xは、合意書締結後に契約書のドラフトを送付して契約条件の検討を継続している
② Xは、合意書から独占交渉条項をあえて外し、実際にYはX以外にも売却先の交渉を続けている
③ YがXを売却先から外したと通知した際に、Xは売買契約の不履行を問題とするのではなく、今後も最善の提案をすると送信している
(3)以上から、売買契約が成立していることを認めるに足りないから、売買契約に基づく所有権移転登記手続請求は理由がない。
第3 裁判例2(東京地裁H26.12.18)
1 事案の概要
(1)平成24年9月12日頃、Y(被告)とその妻Gは、銀行担当者Dから不動産業者のEを紹介され、Eから相続対策用の不動産購入のセールスを受けた。
相続対策の内容は、銀行から資金を借り、賃貸物件として不動産を購入するというものであった。
(2)同年9月下旬頃、YとGは現地を訪れた際、土地に接する隣地の私道通路部分(隣地通路部分)に長さ1m程度の太い杭が打たれていることに気づいた。
(3)同年9月28日、GはEに、隣地通路部分の通行の可否と境界承諾書の所得の有無の確認を依頼した。
(4)同年10月1日、Yは、不動産を2億2500万円で購入する旨の記載のある「不動産取纏め依頼書」をEに交付した。
依頼書には、「売主の承諾が得られ次第、売買契約の締結を致します。」との記載と契約予定日の記載があった。
(5)同年10月11日、GはEから重要事項説明を受けた際、境界承諾書は取得できていないと聞いた。
Yはこれを聞き、不動産は第三者に賃貸予定であるため、通行をめぐってトラブルになるおそれがあると考え、購入を見送る考えを固めた。
(6)同年10月12日、Yは境界承諾書を入手できないなら取引はしない旨をEに告げた。
また、10月15日にDに、16日にはEに、売買契約をしない旨を改めて伝えた。
(7)同年10月15日、X(原告)はCと、不動産を2億1500万円で購入する旨の売買契約を締結した。
(8)その後、XはYに対し、債務不履行及び不法行為による損害金として違約金転売利益分等の合計3393万円余を請求した。
2 判決の要旨
Xの請求を棄却
(1)売買契約の成否等について
以下の理由から、依頼書は不動産の購入を希望する意向を示したものに過ぎず、依頼書をもってXY間で不動産売買契約に関する合意が成立するに至っていたとは認められず、売買契約が成立していたと認めるに足りない。
① 不動産売買に関するXY間の上記の交渉経過
② Yは銀行から融資が受けられることを前提として購入を検討していたにとどまる上、依頼書差入れの時点でYが融資手続を行っていた形跡もうかがわれない
(2)YのXに対する契約締結上の過失の有無について
以下のように述べて、Yに契約締結に努めるべき信義則上の義務があったと認めることはできないとした。
① XがCとの契約を締結したのはEから同日までに契約を成立させておく必要がある旨の申し入れがあったためであり、他方、YからX又はEに対し、XY間の契約に先立ってXC間の契約書を提示するように求めた事実はうかがわれない
② Yは当初から、隣地通行部分による通行の可否及び隣地所有者との紛争のおそれについて懸念を示していたもので、Yの不安が払拭されなかったことが契約締結に至らなかった最大の理由である
③ 上記のようなYの意向は、Eにおいても十分認識していた上、Yとのやりとりについては逐次、EからXに対して報告されており、XもYの要望等を認識していた
第4 検討
不動産の売買契約においては、契約書の締結に先立ち、いわゆる「買付証明書」が提出されることが多く見受けられますが、一般に、これをもって売買契約が成立したとは認めることはできないと考えられています(奈良地判 昭和60年12月26日)。
上記の2つの裁判例は、売買契約書に先立つ「合意書」や「不動産取纏め依頼書」が作成・提出された事例でしたが、いずれも不動産の売買契約の成立を認めませんでした。これらは、①売買契約書として記載されうるべき事項の記載がないという書面の記載内容や、②交渉経過などが問題とされたものです。
売買契約、特に不動産の売買契約という高額な売買契約の場合、売主・買主とも、個々の不動産の特性を踏まえ、将来をも見据えて検討すべき事項があることが一般的でしょう。売買契約の成立が認められるためには、価格などの売買の基本的な条件の確定が必要ですが、こうした検討事項についても十分に対処した上で契約を締結することが望まれます。
2016.01.23
債権回収の法的手続
Q.「当社はA社に300万円の売掛金があります。しかし、今まで何度支払を督促してもA社は一向に支払おうとしません。何かいい方法はないでしょうか。」
A.A社が支払わない理由にもよりますが、一般に次のような方法が考えられます。
1 まずは、今までされてきた請求書の発送などとは別に、「内容証明郵便」という書留郵便で請求することが考えられます。これは、貴社がそうした内容の郵便を送ったことを郵便局が証明してくれるものですが、形式が特殊なので、これによって当方の強い意志をA社に伝えることができます。
2 内容証明郵便を送っても効果がないと思われる場合、あるいは送っても支払がない場合には、次のような法的手続をとることが考えられます。
① 調停
これは、原則として話し合いで解決を試みようとするものです。裁判所の調停委員が当方とA社との間に立ち、双方が歩み寄れる範囲で支払に向けた合意を目指します。
ただ、そのために当方も何らかの譲歩(減額や分割に応じるなど)をする必要があります。また、最終的に話し合いがつかないこともあります。
② 支払督促
裁判所に所定の申立をすることにより、裁判所が簡易迅速にA社に支払を命じる手続です。
但し、A社の所在が分からなくなっているような場合には利用できません。また、A社から異議があれば③の訴訟に移行します。
③ 訴訟
裁判所が双方の言い分と証拠を考慮して判決を言い渡す手続です。
もっとも、相当の割合で話合い(和解)が成立しています。
3 ①の調停や③の和解での約束を守らなかった場合や、②の支払督促や③の判決に従わない場合、A社に財産(不動産、自動車、売掛金、預貯金、現金、機械や在庫といった動産など)があれば、それを差押えてそこから回収することができます。