2019.02.08
後継ぎ遺贈型受益者連続信託について
Q.「私には妻と、前妻との間の子供(長男)がおります。私には5000万円相当の自宅と、約5000万円の預貯金があります。長男は今のところは信用しているのですが、妻が病気がちですので、私が亡きあとには妻に財産を利用させ、妻が亡きあとには長男に財産を承継させたいと思っています。
このようなことはできるのでしょうか。」
1 ご相談者が亡くなった場合、財産は奥様とご長男が1/2づつの割合で相続することになり、奥様がご自宅を相続して利用できるようにすると、預貯金はご長男が相続することとなり、奥様は十分な生活費を確保できない可能性があります。
2⑴ 遺言で財産を奥様に相続させるとすることはできますが、奥様が遺言を作成しないと、奥様亡き後、ご長男は奥様が取得した財産を承継できません。
この点、奥様が亡くなった後には財産をご長男が承継するという内容の遺言(後継ぎ遺贈)はできないと考えられています。
⑵ また、遺言で、ご長男に遺贈することとし、その際に奥様に財産を利用させるという負担を付ける(負担付き遺贈)ということも考えられますが、実際にご長男がこうした負担を履行するかの保証はありません。
3 そこで、信託という制度を利用することが考えられます。
例えば、
① まず、ご相談者が財産をご長男に信託譲渡して、ご長男が受託者、ご相談者が委託者兼受益者となります。これにより、財産はご長男が管理することとはなりますが、ご相談者の生前は、ご相談者が財産を利用することができます。
② ご相談者亡き後は、奥様が第2次受益者となることにより、奥様が財産を利用することができます。
③ 奥様亡き後はご長男に権利を帰属させることにより、実質的に後継ぎ遺贈と同様の効果を実現することが可能です。
もっとも、受託者であるご長男の監督の必要性や、上記②の際のご長男の遺留分の検討、また、税金の検討なども必要ですので、実際にこうした信託を検討される際には、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。
2018.09.06
台風による飛散損害について
Q.「私は一戸建てを所有していますが、先日の台風21号で屋根瓦が飛び、それがお向かいのお宅の自動車に当たって傷を付けてしまいました。
でも、当日はとても強い風が吹き、ほかの住宅でも瓦が飛んだりその他のものが飛んだりしているような状態でしたので、自然災害だから私は責任を負わないということでよいのでしょうか」
1 建物などの土地工作物の設置・保存に瑕疵があり、そのために他人に損害を及ぼしてしまった場合には、建物の 所有者はその損害を賠償する責任があります(土地工作物責任)。したがって、瓦が飛んで他人の自動車に傷を付 けてしまったのであれば、原則としてその賠償を責任する必要があると考えられます。
しかし、いままでに無いような予想外の強風によって瓦が飛んだような場合には、いわゆる不可抗力によるもの として、責任を問われることはありません。
もっとも、瓦の設置方法に問題があったり、メンテナンスに問題があるなどして、予想外の強風でなくても飛ん でしまったと思われる場合には、やはり、設置・保存に瑕疵があったとして責任を負うこととなります。
2 先日の台風21号では、大阪市内の最大瞬間風速は47.4mを記録し、およそ半世紀ぶりの強風だったようで す。したがって、瓦が飛んで損害を与えても、いわゆる不可抗力によるものとして責任を問われないとも考えられ そうです。
しかし、建物の築年数やその後の屋根の状況などから、メンテンナンスを適切に行っていなかったと考えられる ような場合には、やはり責任を負う場合もあると考えられます。
過去の裁判例でも、最大瞬間風速38メートルの台風で、築後8年半経過した家屋の瓦が飛散して隣家を損壊した 事案で、それまでに特別な異常は見受けられなかったものの、風速14.5メートルの時に飛散を始めていたこと や、近隣建物より屋根の被害が大きかったことなどから、修理費の1/3の賠償が命じられたものがあります。
3 ご相談の事案でも、お向かいとの今後の関係や、上記の裁判例などから、可能であれば、ご相談者が何らかの負 担を含む話し合いによる解決も検討してもよいのではないかと思われます。
2018.09.04
震災と借家について
Q.「私は賃貸住宅に住んでいますが、先日の地震で建物が一部壊れてしまいました。
①家主がなかなか直してくれないのですが、どうすればよいでしょうか
②家主から、直すために一時退去してほしいと言われていますが、退去しなければならないのでしょうか
③家主から、取り壊すから退去してほしいと言われていますが、退去しなければならないのでしょうか」
①について
建物が滅失しているような状態でなければ、原則として、家主に修繕を請求することができます。契約で、「修繕は借主が行う。」、となっていたとしても、それは小修繕(短期間かつ少額で修繕できるもの)に限られます。
家主が修繕してくれない場合には、損壊によって使用収益できない割合に応じて家賃の一部の支払いを拒否することができる場合もありますので、家主とよく話し合うことをお勧めします。
どうしても家主が修繕をしてくれない場合には、借主の方で修繕をして、その費用を家主に請求することもできます。
②について
借主が居住したままでは修繕ができないのであれば、修繕期間中は一時退去する必要があります。その際、引っ越し費用や仮住まいの賃料は家主に請求できませんが、一時退去中の家賃は払う必要はありません。
③について
修繕が可能で、かつ、過大な費用がかからないのであれば、原則として立ち退く必要はありません。
但し、家主の要求に「正当の事由」があれば、契約期間満了時(賃貸借期間の定めがないときは6カ月後)に立ち退く必要があります。ここでの「正当の事由」の有無は、損壊の程度、修繕費用と修繕により延びる耐用年数、立ち退きによる借主の不利益、家主が建物を利用する必要性、立退料の有無と額などを総合して判断することとなります。そこで、立退料を含め、家主とよく話し合うことをお勧めします。
2017.12.03
注文住宅の瑕疵と民法改正
Q.「ハウスメーカーに注文住宅を建ててもらい、住み始めましたが、雨漏りなどがひどく、契約を破棄してお金を返してほしいと考えています。可能でしょうか。」
A.現行民法では、住宅の請負契約については、原則として契約の破棄(解除)は認められませんでした。
しかし、2020年施行予定の改正民法では、解除の可能性は広がる予定です。
1 注文住宅を建ててもらう契約は請負契約の一つですが、請負契約においては、契約の目的を達することができないときは、契約の破棄(解除)が認められています。
しかし、注文住宅などの、建物の請負契約では、引き渡された建物に雨漏りなどの不具合(瑕疵)があっても、原則として契約の破棄(解除)は認められませんでした。ただ、最高裁判所の判例などで、不具合があまりひどく、建物としての存立価値がないような場合には、建替費用相当額の賠償請求が認められるなど、解除に匹敵するような請求が認められる場合があります。
2 このたび民法が改正され、2020年に施行の予定とされていますが、改正民法では、建物の請負契約では、契約の解除は認めらないとする規定が削除されました。
したがって、改正民法の施行後においては、建物の請負契約であっても、他の物の請負契約と同様に、契約の目的を達することができないときは、解除が認められることとなります。
3 ご相談の件では、残念ながら、原則として契約の解除は認められず、瑕疵を特定して、その補修費用の請求(その他、瑕疵の調査費用、補修の間の仮住まい費用、引っ越し費用など)が認められるという程度にとどまるかと考えられます。ただ、建物の基礎や躯体などの瑕疵がひどく、建物としての存立価値がないような場合であれば、建替費用相当額の賠償請求が認められる可能性があります。